ジェイクールのスタッフ雑記

『電王戦タッグマッチ2014 Bブロック』鳴り響いたティロティロ。渡辺解説が贅沢にも3局!

『電王戦タッグマッチ2014』のBブロックトーナメントが本日開催されました。
先日のAブロックも見ましたので、その話も入れつつ本日の話を。

まず、書いておきたいのは「電王戦タッグマッチってどうなの?」という部分。
これに関しては見てもらうと一目瞭然なのですが、完全に将棋祭りなどの席上対局な趣向でした。

席上対局を見たことがある方は分かると思いますが、
あれと同様に対局者を後ろ目に大盤解説をするという余興スタイルで、
大掛かりな演出とセットを組んでやってみました、という感じ。

解説も会場の空気も将棋イベントそのもので、終始楽しい雰囲気でしたね。
終局直後に大盤で対局者と解説を交えて感想戦をやってくれるのも嬉しいとこ。

ほんとに将棋祭りイベントに参加しているような感覚で二日間共とても楽しかったです。
見てから問題点だと思ったのは、先日の電王戦に関する発表を行った際に、
「タッグマッチを将来的に名人戦、竜王戦に次ぐ賞金額の棋戦にしたい」と発言した事ですね。

第3回まで行ってきた『電王戦』がガチンコで、タッグマッチも棋戦を目指すのであれば、
当然ガチンコ指向だと思っていたので、今回のイベントがこんなに花模様とは予想外でした。

将棋イベントとしては大変面白かったですが、これだけコンピュータと仲良くやってしまうと、
来年もファイナルをやる「1対1の電王戦って何なの」と思う部分も。

第1回から3回までプロ棋士の意地と誇りをかけた戦いだと思って見てきましたが、
次のファイナルは、おそらく紅白戦程度にしか思えない気がしています。
来る時が来ただけかも知れませんが、ガチンコでやりきってからタッグでも良かったのでは。

ここからは「イベントとしてはとても面白かったよ!」というお話。

Aブロックは、ひふみんこと加藤一二三九段の参戦でしょう。
予想通りとは言え、やはりコンピュータに頼る場面は無く、力強く独力で指しておりました。
太地君との対局では、お互いの指し手が早くなったシーンで二手指しのようになっていたようで、
渡辺二冠がBブロック解説時に「あれが面白くて~」と話していました。

Aブロックは2戦勝って決勝進出の中村太地六段が、このまま優勝するのではと見ていたのですが、
森下九段がツツカナと相性が良かったというか、使い方が素晴らしかったというか、
見事な差し回しで、大熱戦の末に勝利。

一度はツツカナが詰み手順に誘導したのですが、マシントラブルで独力になった森下さん。
そこでは、詰み手順に気づかずバグ扱いで頑張ることに。
それでも、盛り返されながらも、勝ちきったのは流石でしたね。

森下さんはコンピュータの優勢になってから勝ちきるのが上手い部分をとても評価していて、
「これなら七冠とれましたね」など森下節も絶好調でした。

決勝戦では、藤井九段と三浦九段の兄弟弟子解説となり、これがまあ面白かったこと。
この組み合わせは前にも見たことはあったのですが、今回は何故か藤井さんが妙に攻撃的で、
「これ本当に空気悪くない?」ってとこまで、三浦さんをいじり(攻撃)倒してました。

えりりんは、聞き手をやる時はノリノリなのに、進行をやる時は何だか緊張してましたね~。
炎上する三浦さんを鎮火することなく加速させていたのは、いつもながら上手いもんです。

中村太地君の好青年ぶりも陰りが無く、今日も好感度あげあげでした。
他にも面白い場面、楽しい場面は色々あったのですが、本日のBブロックの内容で、
ほとんど上書きされちゃいました。

って事で、Bブロックの話。
本日は最初のトーナメントのどこに入るか(シードなど)を決める抽選から面白く、
最初に選択権を得た船江君は、シードを選ぶことなく一番対局数の多い枠の先手番となるEへ。

続いて選択権を得たのは同門の菅井君。「船江さんと戦いたいので」と宣言するじゃないですか。
これを受けて同じく一番対局数が多く、且つ後手番となる、一番厳しい枠のDへ。

意欲的な一門ですねえ。この対戦カードはオープニングゲームに。
本局は相矢倉となったのですが、後手が5五歩と仕掛けた変化が珍しく、この攻めが繋がります。
先手は悪手らしい悪手は無かったのですが、両対局者のCOMの読み筋にも無かった、
菅井君の7五歩が凄く感触の良い手で、後手の攻めは止まらず、矢倉で後手が攻め倒す展開に。

船江君が「痛みもなく斬られていた」と評した将棋は、菅井君の完勝譜となりました。
菅井君は戦略として「習甦が力を発揮しやすい形を作って、後はおまかせ」と言っていましたね。
それが出来るのも凄いですし、手も選んでいる訳で、菅井君チームは優勝候補でしょう。

最初の5五歩から仕掛けの形に関しては、菅井君が習甦と対局していると、
後手の習甦があの形をやるそうで、評価値自体は先手に出るらしいのですが、
「これは後手が良いんじゃないか」と思ったところから採用したそうです。

精査して咎められる形がないのであれば、新しい定跡になる可能性もあるだけに、
今後の矢倉戦では気にしてみたいとこです。矢倉の後手であれだけやれたらいいですよねえ。

こんな感じで初戦からベストバウトっぽい対局に。
本日は本局以外にも面白い対局が多かったのですが、解説も負けず劣らず会心の面白さでした。
解説者は、渡辺二冠と豊川七段。解説A級のお二人です。

個人的には渡辺さんの解説が一番好きなので、今日は最高でしたねえ。
1局目と3局目。4局目も途中からと、3局も解説が見れるとは感謝でしょう。
相変わらず圧倒的に手が見えていて、分かりやすい解説ですし、
いつも通りのラフなざっくりトークが面白すぎです。

序盤から「アンケートやりますか?」の声に対して
「どうせ3のニャンだからいいでしょ」という放送を熟知した様式美破りとか素敵すぎます。
後の優勝予想アンケートでは6に「にゃ~ん」とだけ書かれていました。もちろん圧倒的にゃ~ん。

3局目の解説では、2局目の豊川さんがダジャレ無双だったのを受けて、
渡辺さんもちょいちょい豊川ダジャレを放り込んでいました。
ニココメでは「かぶせていくスタイル」「使っていくスタイル」など。楽しいですねえ。

2局目はティロティロの西尾六段とサトシン(紳哉さん)の対決で、
コンピュータ将棋に精通しているという西尾君が、研究分野でもある横歩で序盤からリードを奪い、
シンヤさんは見せ場なく、西尾君の勝ち将棋に。

森下さんが言ってましたが「コンピュータは優勢になってから勝ちきるのが上手い」と。
なので「より序盤が重要に」とも。
これは二日間対局を見ていて実感した部分で、両コンピュータが300以上で優劣の認識が合うと、
「なかなか逆転が難しいのでは」というのが率直な感想です。

人間の将棋では「優勢になっても、そこから勝ちきるのは大変」と言われるだけに、
この部分の差がやはり今までの電王戦の結果に現れているのかな、と思うところもありますね。

3局目は菅井君と阿部光瑠四段の対決。
先手の菅井君は初手7六歩から3手目で1六歩と突き、そこからゴキゲン中飛車へ。
後手は超速3七銀で迎え撃ちます。よく見る形ですが、先後が逆だと変な感じがするもんですね。

コール君は「YSSが受けが強いと聞いていたので、そうなるようにしたかったけど」と感想戦の弁。
あまり上手く行かなかった模様です。ソフトとの相性もありますしね。
対する菅井君は相変わらず、習甦の使い方が上手く、何とも巧みな手順で確実にリードを広げました。

人間同士でやる将棋と違う部分の一つとしては「詰むや詰まざるや」となる前に
「9999」と評価値で詰みだと分かってしまうところ。
両対局者とYSSがまだ読みきれていない中、習甦が「9999」と出しておりました。

という訳で、菅井君が決勝進出。西尾君との対決に。

決勝では途中までフナエモン、サトシンの敗戦ペアが解説。
船江君が本譜の進行にズラネタを放り込んだところ、その話を広げる展開となり会場大爆笑。

読み上げの飯野さんは笑いを堪えるのが大変そうでした。
このペアの解説も面白かったですねえ。
代わった渡辺さん、豊川さんコンビは言わずもがな面白かったです。

本局は、先手の菅井君が前局と同じく3手目に1六歩と突き、
ゴキゲン連投かと思ったのですが、5手目に7七角。
同角、同桂となり、ダイレクト向かい飛車にするのかと思いきや居飛車に。

本当は振り飛車にしたかったそうで、予定変更の居飛車だったとのこと。
その影響か前2局ではしっかり玉を固めていたのに対して、
本局ではどちらにも囲い辛い、終盤まで居玉で戦う、勝つのが大変そうな将棋となりました。

後手はポナンザが好みの展開だったのか、小さい数字で触れていた習甦に対して、
終始気持ち良く数字ノセノセで、マイナスになることもなく見事に勝利。

ポナンザが力を出しやすい形を理解していた西尾君の誘導が上手かったように見えましたね。
本局は力戦系で序盤が長い将棋となり「何が何やら」という難しい将棋でした。
習甦が終盤まで大きくマイナスには触れなかったので、チャンスがあるかなと期待したのですが残念。

菅井君の発言も面白いのが幾つかあって、自分が指した手ながらも
「振り飛車ってこうやるんだなあ」と。習甦の考えた手に関心していたようです。
戦略の攻め形にして習甦に任せるスタイルを「自分は操作係」と言って見たり、
終盤は「映画鑑賞しているようなもの」とも言ってましたね。
実際は菅井君の指し回しも非常に素晴らしかったので、良いチームだったと思います。

電王戦リベンジマッチを見て以来、とても好きな棋士だったのですが、更に好きになりました。
あの決断の良い棋風も好みです。

最後は優勝した西尾君がティロティロを生演奏して締めてくれたら神演出でしたが、さすがに無し。
決勝ラウンドでは、そんなのがあっても良いかもしれませんね。
入場曲を生演奏で一つどうでしょう。

今回のようなコンピュータを使って指す将棋は功罪があるんじゃないかなあ、
と思いつつ本記事はこの辺で。
Bブロックは特に面白かったので、気になる方はタイムシフト視聴をオススメしておきます。

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