ジェイクールのスタッフ雑記

第26回世界コンピュータ将棋選手権 決勝リーグ編 大盤解説会に一日行ってきました!

第26回世界コンピュータ将棋選手権。
昨日は二次予選をニコ生で見ていた話を書きましたが、
その中で予告した通り、本日は現地の大盤解説会で決勝リーグを見てきました。

会場の『川崎市産業振興会館』はJRの川崎駅から7分程度で、
改札を出て、正面左にある階段を降りると大きな道に出るので、
そのまま真っすぐ行けば左側に会場があります(途中の横断歩道で左側に渡って下さい)

解説会場のあった1Fのホールは下記のような感じでした。
施設公式のURLを貼っておきます。ページ下の方に拡大写真が複数あり。

http://www.kawasaki-net.ne.jp/hall_guide/floor/floor1.html

ここを暗くして正面のステージ中央にプロジェクターを使い、
ニコ生でも中継されていた棋譜解説ソフト画面を含む、パソコン画面が映し出されていました。

ステージ左側の壁には同じくプロジェクターでニコ生の画面の映し出されていて、
解説を聞きつつ、皆のコメントも見れて、これが結構ありがたかったですね~。

ホール内は飲食が禁止となっているので、飲み食いしたい場合はロビーに出る形となります。
会場内はエアコンが良い温度になっていますが、1日いる場合は羽織るものがあってもいいかも。

今回は会場の場所が良いのもあり、解説会の席がどれだけ埋まるか予想しづらく、
「朝一で行けば、とりあえず座れるかな」と思いつつ少しドキドキでした。

実際の客席の埋まり具合は、到着時で1割程度。
一番多かったのが最後の表彰式で、4割ぐらいだったでしょうか。
という訳で客席には余裕があったので、もっと来てくれちゃって大丈夫でした。

自分が普段からSNSを使っていれば「解説会場に余裕がありますよ~」とか
流せて良かったのにな、と思いましたね。

せめて拍手の音が寂しい感じにならないように、良い音がなる拍手を頑張っておきました!

決勝リーグは全8チームのよる7回戦総当たりとなっており、
二次予選で一位通過の『技巧』と二位通過の『ponanza』の対戦は最終局に組まれました。

これは大相撲が連想されるところで、
「強い両横綱が取りこぼし無く、全勝で千秋楽決戦となるか」
といった感じです。

メイン解説は奇数局が菅井七段、偶数局は2局目が千田五段、
4、6局目が遠山五段となっておりました。
聞き手は昨日のニコ生と同じく君島さん、古作さん、篠田さんが交代で登場となりました。

ここから面白かった対局の内容に触れて行こうと思ったのですが、
全部で28局も見たのもあり、棋譜を見ないと、どれがどの将棋だったか
思い出せない罠。

まあ、細かい手に触れていくと、えらい長くなりそうなので、
解説の話や印象をメインに書きましょう。

今日は一斉対局が4局ずつで、時間的に余裕があったので、
全部の対局に対して解説が行われたのですが、
菅井君がコンピュータの凄い手を一つずつ拾って解説してくれて、
これが大変ありがたく、面白かったし、とても楽しかったですねえ。

特に1局目から菅井君が感心していたのは、コンピュータの指し手を省く技術。
人間の場合、もう少し囲ったり、駒組みするところを省いて仕掛けるシーンが数多くあり、
たびたび、感嘆の声をあげていました。

個人的には本来このような形なのかな、と昔から思っていた部分があります。
自分が将棋を指したり見るようになった頃は、藤井九段の藤井システムが流行っていて、
廃れていく過程でも「5六銀型でどうかな」など試していた記憶があります。

自分の場合は藤井システムが好きだったというより、
藤井さんの考え方が好きで、囲うよりも積極的に動いてポイントを取りに行き、
そこから優位を築いて勝ちきる。これではないかと。

がっちり囲うというの自体が、指していく過程で誤算が出る可能性が高いため、
その場合に玉は堅い方が良い、という部分が暗にあるのかなと今でも思います。

先日、電王戦のPVで『ponanza』開発者の山本さんが
「定跡を使うの自体が弱者の戦術じゃないでしょうか」と言っていたのにも
共感するところで、似たような感覚です。

ただ、それ自体を否定するつもりはなく、積み上げられた叡智である定跡の進化や、
人間同士の間合いや呼吸と言った部分での指し手は醍醐味ですよね。

そこらへんを抜きにしてフラットに将棋を考えた場合には、
やはりコンピュータが指している将棋があるべき姿か、近いのかもしれません。

早速脱線しましたが、菅井君は忌憚のない率直な感想も多くて、
「同じ将棋でも人が指すのとは別の競技に思える」や
「人類は勉強が足りなかったのかも」など、ハゲドウな内容も多かったですです。

2局目の千田君の解説回だったか、二次予選の『技巧』と『ponanza』の対局の話にも触れていて、
勝った『技巧』は40手目辺りから既に+600ぐらいの評価が出ていたそうで、
対する『ponanza』は終盤まで五分五分ぐらいの評価だったようです。

その千田君の回では、先日に続いて振り飛車の話になる場面があり、
聞き手の古作さんが話してくれた内容で、前に三間飛車の使い手である中田功七段が
6手目に3二飛車と振ったところ、それが-200ぐらいの評価になって、
「ふざけんな、このやろうっ」とオコになったそうなw

これには、千田君が少し解説してくれて、
振り飛車に対するコンピュータの評価で、後手の三間飛車は評価が低いそうです。
石田流だとまた違うそうなのですが、ノーマル三間飛車は厳しいようです。

振り飛車に関しては『ponanza』の山本さんも、
質問に答える形で「ponanzaはどれを指しても一局だと思っているので、
戦型の縛りはしていません」と言ったあとに「ノーマル四間飛車以外は」と
補足していました。

決勝リーグは二次予選と違って、振り飛車を見かける機会が多かったですが、
確かに強いソフトが三間飛車や四間飛車をやっているのはあったかどうか。

古作さんが、ある将棋で「これはどの戦型に分類されますか」と菅井君に聞いて、
「その他じゃないですか」と答えた場面がありまして、
その後に菅井君が「振り飛車もそのうち『その他』になりそうですね」と言ったのが、
おそらく冗談だと思うのですが、若干のリアリティもあり、反応に困るっていう(笑

将棋の方は前日の予想通り『技巧』『ponanza』が他を寄せ付けない強さを見せていて、
7、8位のソフトは、やはり白星がつかない状態が続く進行となりました。

見ていて感じたのは、昨日も思いましたが『技巧』の見切りが達人のそれですね。
今日も裸玉でステップを踏んでいるようなシーンがあり、見ている人を魅了しちゃいます。
全勝対決が濃厚になってきたところで行われた会場とニコ生でのアンケートも、
『技巧』が6割ちょいと人気になっておりました。

他には『Apery』の対局は、だいたい『Apery』が先行して仕掛けることが多く、
この攻めが決まったり決まらなかったりが相手の強さを見る指標になっていたようにも。
上位2ソフトは流石の受けでしたね。

受けと言えば『大将軍』の受けも見応えがありました。
元々、受けに定評のあるソフトだったそうですが、
二次予選に続いて、決勝リーグでも粘り強い受けから逆転する将棋があり、
今回、内容を見ていて特に面白かったソフトの一つでしたね。

あとは、2局目の最終盤でバグか仕様なのかは不明でしたが、
『大合神クジラちゃん』が勝ち確定の局面で、一手詰めもスルーという怪しい動きを
連発していたのは謎でしたねえ。

『大合神クジラちゃん』はニコ生の有志リスナーさん達のパソコンを繋いで
クラスタ化しているそうで、今回だと最大で370近いマシンが協力していたそうな。
これはマシンの数によっては、1秒で3億から5億手読めるという話でしたね。

4回戦では遠山君が『Bonanza』開発者の保木さんが会場に来ているという話ついでに、
保木さんの近況として、最近は囲碁ソフトの開発を行っているそうで、
先日の囲碁ソフトの大会でも良いところまで進出したとか。流石ですねえ。

この話はニコ生でも流れていたと思いますが、
実は放送前にも喋っていて「放送用に取っておけば良かったですね~」と言いつつ、
放送が始まったら、しれっと早速リピートするっていう。なんか聞いた事あるぞ(笑

同じく遠山君が解説してくれた6回戦では、ゲストとして上野裕和五段も登場しました。
上野さんは全くコンピュータ将棋を見たことがないそうで、今日は棋士として勉強にきたそうです。
人間将棋の純度100%の上野さんの反応は、面白いといっては失礼かもしれませんが、
かなり面白くて、会場とニコ生を大いに盛り上げてくれました。

上野さんが遠山さんに「わたしたち棋士は、この一手に~」とプロ棋士らしい、
「本当にその通りだな」と言う意見も述べていて、これには遠山さんも
「コンピュータ将棋に慣れて、毒されてしまいまして~」と苦笑いでした。

その6回戦では、ニコ生の放送でも棋譜中継が上手くいかないシーンがあって、
これは棋譜解説ソフトが、ネットワーク経由での棋譜読み込みが出来なくなり、
最初は単純にエラーと出ていて、ソフトを立ち上げなおしたりしたのですが解消せず。

次に「メモリ不足です」と違ったエラーが出ていたので、
「これならパソコンの再起動で解消されるかな」と期待されたのですが、
再起動しても、やはりエラーが出る状態となっていました。

何かしらパソコン自体に問題が発生した可能性も考えられるため、
予備のパソコンで同ソフトを立ち上げて見るも、やはり同じエラーが出る状況でした。

という訳で、パソコンの問題ではなく、ソフト自体のネットワーク経由の読み込みに
問題がある可能性が高そうで、すぐに解消されそうもないという判断から
公式サイトの棋譜中継から棋譜を保存して、ソフトで読み込むという形となっておりました。

なので、たびたび公式サイトに棋譜を取得しに行く場面があり、
この作業も放送に流れていたため、ニコ生では色々なコメントが流れる結果に。

予備マシンがニコ生スタッフのパソコンだったのもあり、
ブラウザを開いた時に某スケジュール管理ソフトのログイン画面が表示されたのには、
ニコ生でも「見たことある!」などと盛り上がっていました(笑

ここでの機材トラブルの影響で、解説時間が長くなった結果、
最後の7回戦の開始時間に食い込むという展開となり、
「7回戦始まってるよ~」などなど、コメントが飛び交っておりました。

そして、その7回戦。
ここまで大きな波乱が無かった結果、それぞれ4局が優勝決定戦、
3位決定戦、5位決定戦、7位決定戦となりました。

やはり優勝決定戦のカードが最注目ということで、
最初に『技巧』対『ponanza』を長めに見た後に、他3局もさらっと様子を見て戻ってみると、
短時間の間に既に大勢が決しているという衝撃的な展開に。

先手『ponanza』の棒銀から激しい流れとなり、
ここまで素晴らしい見切りを見せていた『技巧』でしたが、どこに落とし穴があったのか、
妙技は出せず、『ponanza』らしい猛攻で、81手にて先手勝ちの決着となりました。

後手は4四歩と突いた本局の形自体が「あまり良くない定跡を引いてしまった」という意見や、
序盤、中盤、終盤を認識して、評価が変わるシステムが、今回の早い展開に対して、
「上手くスイッチしきれない部分があったのではないか」いう話がありましたね。

手数は短かったですが『ponanza』の棒銀に対して、『技巧』が1四銀と出た手に、
1六歩と指した手には痺れましたねえ。あんな手を指したいもんです。

優勝インタビューでは、本局でも『ponanza』が3手目に指した、
たびたびある序盤の5八玉に対して、「開発者はどのように見ているか」という質問があり、
これには山本さんが「手損になる可能性があっても、相手の手を見て動くのがトータルで見た場合に
プラスになると考えているのではないか」と見解を示していました。

優勝の表彰では、副賞として富士通のノートパソコンが山本さんに渡されたのですが、
山本さんは支援してもらっているドスパラさんの宣伝Tシャツを着ていたので、
「なんかすいませんっ」と会場の笑いを誘っておりました。

続いて新人賞、独創賞の表彰では、準優勝の『技巧』がダブル受賞。
今大会を一番盛り上げてくれたソフトだと思いますし、
内容を見ていて一番面白いソフトでした。おめでとうございます。

『技巧』はオープンソース化される話もあるようで、
実現された場合には、今大会で『Apery』チルドレンが躍進したのに続いて、
来年は『技巧』チルドレン達が猛威を振るうのでしょうか。

可能性は十分にありそうですし、『技巧』レベルが一つの水準になってくると、
今回出場したソフト達も、独自路線や『Apery』ライブラリベースを貫くのか、
方向転換となるのか。来年の出場チームに注目です。

最後の話題として、優勝インタビューの中で『ponanza』の伸びしろについて質問があり、
これに山本さんが「それは将棋自体が持つポテンシャルに依存する」というニュアンスの
回答をしていたのが印象的でしたね。

昨日のニコ生では君島さんが文字通り「人外の将棋」と表現していましたが、
もう少ししたら「神々の将棋」となる日がくるかもしれませんね。
それが来年か、数年後か。もっと先なのか。

なんて書いておりますが、この大会を見ていていつも思うのは、
開発者や関係者の皆さんがとても楽しそうだなあと。
将棋もプログラムも好きなので、この輪に入れたら最高ですよね。

とりあえずGWが明けたら、会社の若いスタッフちゃんに
「二次予選でそこそこ良いところまで行けるぐらいによろしくっ」
と言ってみましょう。言うのは簡単です。自由なのです。

それでは、そこそこ端折ったにも関わらず、
結構な文章量になったのを確認しつつ、これで締めたいと思います。

良いGWになりました。ありがとうございましたっ。

【二次予選の記事】
https://www.j-cool.co.jp/blog/?p=5351
【最近は将棋記事が少な目なジェイクールの雑記一覧】
https://www.j-cool.co.jp/blog/?cat=4