ジェイクールのスタッフ雑記

第65回 NHK杯『稲葉陽 七段 vs 佐藤天彦 八段』これぞ横歩だ!空中戦!土俵際を制したのは

第65回NHK杯テレビ将棋トーナメント。
本日の対局は『稲葉陽 七段 vs 佐藤天彦 八段』。
一回戦の対戦カードを見た時に「ここだけは!」と最注目していた対局です。

解説は中村太地六段。
いつもながら喋りが抜群に上手いですねえ。
太地君が棋界の顔になる日は遠くないかも。

さて、対局前インタビューは先手の稲葉君から。
「買った負けたで反響が大きい、頑張りがいがある棋戦」
「自分の力を出し切りたい」と、気合十分。

続いて天彦君。
「皆に見てもらえる大きな舞台。一手一手を大切に」

両者のコメントを聞くと「テレビ棋戦はやっぱり晴れ舞台なんだな」って思いますね。
天彦君が最初にNHK杯に出た時を覚えていますが、気が付けばA級棋士として参加とは
時の流れを感じます。貴族天彦が行く。NHK杯はどこまで行けるか。

太地君は「一回戦屈指の好カード」と評していて、これには「うんうん」と。
戦型予想は『横歩取り』を挙げていました。

先手:稲葉陽 七段
後手:佐藤天彦 八段

7六歩、3四歩、2六歩、8四歩、2五歩、8五歩。
7八金、3二金、2四歩、同歩、同飛、8六歩。
同歩、同飛、3四飛、3三角、3六飛、8四飛。

太地君の予想が当たり、戦型は8四飛型の横歩取りへ。
少考も無く手が進みます。

2六飛、2二銀、8七歩打、5二玉、6八玉、7二銀。
4八銀、7四歩、1六歩、7三桂、5九金、7五歩。

後手が7五歩と仕掛けたところで一呼吸。大盤で解説開始。
天彦君の考えているポーズは「難事件を推理している探偵」と言われても
違和感がない、そんな雰囲気がありますね。

太地君の解説によると、先手の6八玉型は研究だろうという話で、
後手横歩を得意とする天彦君に、稲葉君が正面から挑んだ格好。
「後手横歩で8,9割勝ってるんじゃ」とも言っていて、驚異的ですね。

同歩、6五桂、6六歩、7七歩打、同桂、同桂。
この軽快な桂跳ねが横歩らしいですよね。桂交換へ。

ここで対戦成績。稲葉陽七段の0勝。佐藤天彦八段の2勝。
やはり負けてる側としては、まず1つ勝ちたいところ。

同角、7六歩打、8六角、5四桂打、6七金、6六桂。
後手は時間を使って5四桂打。これには6七金と受けました。
後手はここでも時間を使って6六桂を選択。

稲葉君は自身の棋風を「序中盤は積極的に行って、終盤は粘り強いタイプ」
と見ているようです。

太地君は1対1で対局ベースの練習将棋を行う『VS』を天彦君とやっていて、
昼食時にはクラシック、ファッションなど、色々な話をしてくれるそうです。
「独自の世界観を持っていて格好良い」「将棋界では貴族と呼ばれています」とも。

天彦君はまたも難事件を推理中。のようなポーズ。
太地君は本局のような空中戦の華々しい戦いが好きだそうで、
横歩は先手でも後手でも。

4五桂打、4四角、5六飛、4二金、7六金、3三桂。
後手は4分使って4二金。そこからの3三桂が上手い手順に見えます。

太地君曰く横歩のコツは「ただで駒を取られないように」だそうです。
「飛車、角、桂馬を意識して使うように」「あとは経験が大事」とのこと。

同桂成、同銀、6六金、7六歩打、7八銀、3四銀。
じっと3四銀が良い手に見えますね。先手から見ると嫌な手。
遠目に座っていた稲葉君がどんどん前に。

対する天彦君は・・・リップ塗っとる(笑
しかも結構しっかり塗ってますがな。さすが貴族。

6七金、9九角成、7六飛、6四桂、3六飛、4四馬。
本日一番の長考で6七金。香を取らせて馬を作らせるという勝負の手。

後手は勝負所と見て、残り1分まで考慮して6四桂打。
4四馬を見て、太地君は「割とゆっくりした戦いになりそう」と解説。

7七角、同馬、同金、4五角打、6六飛、7六香打。
天彦君の好きな駒は飛車だそうで、理由は「強くてかっこいいから」。
先手は6六飛をバシっと駒音高く。

同金、同桂、同飛、8八金打、5六香打、8七金。
太地君「ギリギリの攻めとギリギリの受け」。

8五歩打、7八金、同玉、9四飛、8九桂打、2八歩打。
天彦君は考慮時間が0分に。
太地君は「現局面は稲葉君が盛り返した印象」と評価。

9四飛、2八歩打を見ていると、同感ですね。
攻めきれず、遂に先手にターンが回ってきた気がします。

1七桂、2九歩成、6二歩打、同金、7四桂打、6一金。
4六歩、2七角成、3一角打、4一玉、2二角成、5四歩。
攻守交替で攻める先手、受ける後手。

4五桂、同銀、同歩、同馬、3三銀打、6四歩。
先手としては決め手を放ちたい局面。最後の1分を投入します。

6三歩打、2一歩打、1一馬、6五銀打、8六飛、6六桂打。
後手の6五銀打に、先手は詰めろをかけられれば勝ち。
6二歩成が詰めろか否か難しいようで、ここは踏み込まず8六飛。

同飛、同銀、6二歩成、3三金、同馬、5六馬。
稲葉君は苦悶の表情。同銀の局面では、4二銀成として、
王手から6六の銀を抜く手もあったのですが、6二歩成と決めに行きました。

これには太地君が「先手は勝っても怖い思いをすると思う」と一言。

同歩、6七銀打、6九玉、6八香打、同金、4九飛打。
6七銀に対する王の逃げ場所は、6九玉以外は即詰み。
後手の迫力のある追い込みが続きます。

5九銀、同飛成、同玉、6八銀不成、4八玉、5七銀成。
先手の5九銀を見て、これに太地君が反応。

「あれ、でもこれは」「いや、でもこれもしかしたら」

「これは詰んじゃいました」

どうやら一手バッタリだったようですね。
最後は5七銀成を見て、先手が投了。

120手で佐藤天彦八段の勝ちとなりました。

一局を通しては、横歩らしい派手な空中戦からギリギリの攻防が続き、
最後は先手が紙一重で凌いで、カウンターが決まったように見えましたが、
後手の受けが絶妙で、特に最終盤の2一歩打からの6五銀打、6六桂打と、
先手を悩ませる手を続けたのが、逆転を呼び込んだ素晴らしい勝負術だったと思いました。

感想戦では「太地君、将棋好きなんだねえ~」と思わせる、
めっちゃ笑顔で話を聞いていたのが印象的でしたね。
期待通りの大熱戦で、素晴らしい対局でした、マル。

追記:
他の本局の記事と天彦君のツイッターによると、最終盤は先手の3三同馬が敗着で、
あれで先手玉に本譜の17手詰みが発生していたそうです。恐るべし。

【オマケ】
1回戦の佐々木勇気君の対局を記事にします! と言ったものの、
書かずじまいだったのは、はい、そうです。負けちゃったからですっ。

先手の主導で進めて、あれだけ序盤で形勢を損なうとは残念無念。
ただ、去年はガチガチに緊張していたインタビューで、
今年は余裕のある受け答えをしていたのが、成長を感じましたねえ。

「書けば良かったなあ」と思ったのは、菅井君と横山君の対局。
あれは見ごたえのある攻防で面白かったですねえ。

応援している菅井君が勝ち残ってくれたのは嬉しかったのですが、
王位戦の挑戦者決定戦で広瀬君に負けちゃったんですよね~。
勝ったと思った展開だっただけに、うーん、凄い残念です。

この時期に名人戦が終わってしまっている寂しさを少し感じつつ、
棋聖戦、王位戦と楽しみにですね。今年の夏は、将棋イベントを絶対見に行きますとも!

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